『天使は炭酸しか飲まない』感想&おすすめ
こんにちは、とこーです。
マジでお久しぶりです。ここ最近は自作のWEB小説にかまけて感想もTwitterに乗せるくらいになっていたのですが、流石に新作で推したい作品はブログにアップしたいよなぁと思い、筆をとることにしました。
え、何を読んだかって?
炭酸が導く、青春ラブコメでございます。
『天使は炭酸しか飲まない』を読んだので感想とおすすめポイントを書いていきます。致命的なネタバレはしないよう気を付けますが、気になる方はまず買ってみてください。名作ですので。
1.設定の妙
今作『天使は炭酸しか飲まない』について、まずは物語の大筋を説明しつつ、設定が上手いよね、ということについて書いていきたいと思います。
タイトルにある『天使』と聞いて、まず思い浮かべるのはなんでしょうか? ラノベ読みだと、一般的な天使というより、学園のマドンナ的な意味での『天使』を思い浮かべるのではないでしょうか? 私もそれは同じで、タイトルを見た感じではその『天使』に纏わるちょっとほろ苦いお話なのかな、と思ってたんですよね。
でも、違うんです。いや、違うっていうか別に言及されてるわけじゃないんですけど。
作中に出てくる『天使』とは、むしろ主人公のこと。
彼が通っている学校で噂の存在となっている『久世高の天使』こそ、『天使』なんです。『久世高の天使』はいわゆる恋愛のキューピッドみたいなもので(厳密には若干違うんですが)、恋の悩みに応え、解決してくれる。そんな感じの存在として噂になっています。
そして主人公こそ、この『久世高の天使』であり、恋愛相談に乗っている張本人なのですが……ここに、この作品独特の要素が加わります。
それが、主人公の持つ『ちから』です。
彼は『顔に触れた相手の、想い人がわかる』という特別な力を持っています。その力と、それから協力者の諸々の協力をもとに、彼は相談者の背中を押しているわけです。
まず第一に、『天使』がヒロインではなく主人公であること。
第二に、主人公に不思議な力を持たせていること。
ここに、私はとても惹かれました。
『天使』だとかいう単語が多い中で逆張りかましてきてるから? 不思議な力がある青春作品が好きだから?
もちろんないとは言いませんが、強く惹かれた理由はそこじゃありません。
どこまでもヒロインが普通の存在として描かれているから、です。
学年三大美女だったり、色んなことができたり、悩みを抱えていたりするヒロイン・柚月湊。しかし彼女は、ふと客観視すると、とても普通の女の子なんです。
そしてこれは、実はヒロインだけでなく、物語全体に言えることでもあります。
ヒロインが抱える悩みも、主人公が抱える悩みも、実は結構ありふれた青春の悩みなんですよね。ただそれを、本人たちは難しい謎のように捉えている。それは本人たちがバカだったり視野狭窄に陥ったりしているからではなく、それこそが『青春』だからなわけで。
分かっていても、認めたくないことがある。
認めたいせいで、解決できないこともある。
普通で、ありふれているけれど本人たちにとってはどうしようもなく大切で、他人に好き勝手に荒らされるべきものではなくて。
そんな青春に加えるたった一匙の不思議こそが、主人公の持つ『ちから』なんです。
相手の好きな人が分かるという、本当にただそれだけの能力。
心を読めるわけでも、好きになったきっかけが分かるわけでもありません。『ちから』は、作中で語られているように、身長とか頭の良さみたいな本人のパーソナルな能力の域を出ないんです。だからこそ特殊能力ではなく『ちから』って呼んでるのかな、とも思いますし。
青春で、好きな人が分かったところでどうなるのでしょう。何かが変わるわけでもない。自分が好かれてないと分かったところで抑えきれる想いだとは限らないですし、抑えたところでどうせ燻ってしまうかもしれないわけで。
この作品の妙は、ここだと思ってます。
特殊能力はなく、事件も起こらず、日常を描く作品もあって、それもとても面白い。
そんな中で生まれた、特殊能力があって、事件があるこの作品。けれども、それは決して特殊な物語ではなく、すこし不思議(=SF)でとどまる、青春の物語なんです。
そしてそのすこし不思議さは、きっと『ちから』がなくとも現実にありうるもので。だからこそ共感もできて、胸がちょっとだけ息苦しくなるサイダーのような物語になっているのではないかと思います。
……ちょっとポエミーになりましたが、ネタバレはあんまりしたくないのでこの程度で。
それとは別に、すこし不思議さがある青春小説めっちゃ好きなのでその時点で好きです。あくまでそれとは別に、って話ですね。
あんまり別作品を出すのは良くないんですけど、青ブタってあるじゃないですか。あの作品はこの作品よりファンタジーな要素が強いですが、その実、描かれるのは人間の内面であり、青春なんですよね。
まぁこれは特殊なことではなく、架空の要素を入れることで現実的な人間の内面をより描くっていう手法なんですが……ラノベだと、最近はあんまりなかったりしますからね。あっても重めだったり。なので、この作品はそういう意味でも面白いです。
2.ヒロイン可愛い(語彙力)
さて、さんざん設定について書いたので(既に2000字オーバーで泣いてます)、次はヒロインについて書いていきましょうか。
今回メインになったのは先述した柚月湊なんですが……他にも二人、カラーイラストで登場してる美少女がいるので、そっちについても軽く触れられればなーっと思ってます。これ絶対ラノベ好きが惚れるよなってキャラもいましたしね。
その前に、ヒロイン周りの設定を。
作品の舞台となる久世高校では、『三大美女』と『プラスフォー』なる存在が勝手に認定されているそうです。『三大美女』があり、その下が『プラスフォー』なのだとか。割とこの辺の設定ってありますし、逆にリアルだとないですけど、ラノベ的文脈だとめっちゃ好きなんですよね……。
まぁごたぶんに漏れずこの辺りでトラブルが起きたりするのですが、そこは読んでいただきたいので書きません。
まずは日浦亜貴。
黒髪ショートカットで、めちゃくちゃスポーツができる子って感じでしょうか。『プラスフォー』の方に入っているものの、興味はないしむしろ面倒だと思ってる子です。主人公とも何かあるらしく……。
主人公が『久世高の天使』であることを知る、数少ない人物の一人となっています。人脈を駆使して情報収集もこなす有能っこ。男勝りな部分はめっちゃいいですし、でも男勝りだからって女の子として見ないわけじゃないんだぜってタイプのキャラ。絶対好きになるでしょ、この子。
しかも、主人公にがんがん喝を飛ばしてくれるタイプなんですよね。友達として、ずばずば物を言ってくれる感じ。
読んだ人にだけ分かるように言いますが、マクドでの二人のやり取りは最高にエモくて熱いと思ってます。
彼女との色々なことは伏せられてましたし、二巻以降が出たらって感じにはなるんでしょうね。読みたいなぁ。
次は、藤宮詩帆。
今回中心となった柚月湊の親友です。眼鏡&ミディアムヘアの女の子。友達思いっていうか、柚月湊思いのいい子です。もう、それはめちゃくちゃに。登場シーンこそ少ないですが、友情に厚いキャラで、作者様の過去作を読んだ身としては(詳しくは後述)、こういうキャラだよなぁって頷きまくりたくなる存在です。
眼鏡キャラですが特別に真面目なわけではなく、お茶目な一面も持っていてこれも可愛いですね。一人はいるヒロインや主人公を茶化すポジ、みたいな。人がいいキャラって感じで、友達でいたら最高なタイプ。
そして最後が柚月湊。
表紙を飾っており、『三大美女』の一人にも数えられていますが、それも望んだわけではないみたいです。
彼女の上で語るべきは、彼女が抱える悩みでしょう。極度の惚れ症が彼女の悩みであり、この解決のために『久世高の天使』に声をかけます。
惚れっぽいって言うとビッチっぽかったりするんですが、でもよく考えてみると大したことなくね、ってなるのがミソです。好きになったからって彼氏をとっかえひっかえするわけでもないなら文句を言われる筋合いはどこに……?という感じ。
惚れっぽいのを自覚してるからこその反応とかもいいですね。クールっぽい見た目で、でも結構子供っぽい部分もあるデレ感。
何より、問題解決した後の反応がいいですね。つまりそういうことでしょ、っていう。どうなっていくのかが楽しみだからこそ、二巻以降を読みたい……!
3.主人公もいいぞ!
ヒロインを語った後は、やはり主人公のことでしょうか。主人公至上主義を掲げるラノベ読みとしては語らずにはいられません。
今作の主人公・明石伊緒は『久世高の天使』であり、恋愛相談に乗って生徒の背中を押す日々を過ごしています。
まず第一に推せるのは、この『久世高の天使』の活動。
彼はこれを本気でやってるんですよ。そのためなら高額イヤホンを買うこともいとわず、かなり大変なことにも付き合い、けれど報酬を求めはせず。せいぜい秘密を守ることを暴露するくらいのもの。
そして恋が叶わなかった相手には、本気で寄り添ってる。
たとえ身バレの可能性あろうとも頑張った相手を励ましたくなるような、血の通った存在なんですよ。そんな一生懸命さ、よくないですか???
第二に、彼のかっこ悪さも推せるんです。
それはかっこ悪さと言うと、少し極端になるかもしれません。人間臭さ、とでも言いましょうか。それだとちょっと胡散臭いですが。
過去のとあることを引きずり、今も踏み出せずにいる彼。
その過去の出来事こそが『久世高の天使』の活動にもつながっており、それゆえに「いいことをしたい」とは思っていても、その行為が必ずしも結果として喜ばしいものになるかは分からない。過去の経験から得た苦い教訓をもとに行動しているだけなんですよね。ってことは、そこには迷いも絶対にありうるわけで。けど迷いつつも、それでも差し伸べた手を掴んでくれた人には誠意を尽くす。そうして自分も、少しずつ、何とかしようと思い始めている。そんな彼を推せないわけありませんよね⁉
これは先述したことでもありますが、やっぱり彼もまた、等身大なのだと思います。『ちから』があって、『久世高の天使』をやっている。そういう意味では普通ではないけれど、ちっとも特殊ではない男の子なのです。
それを人間味として一言で形容してしまうのはどうしても躊躇してしまいます。
そういう魅力がある男の子として、見てほしいです。
何よりですね、最後の展開。
『久世高の天使』の相談者たちの行動が最高に熱くて泣けるんですよ。お前の優しさが伝播してるぞ、誰かの背中をちゃんと押せてるんだぞ、って思えるんです。主人公の行動ではなく、主人公の行動に対する他のキャラの行動によって主人公の好感度が上がる。これこそ、人と関わるスタイルの青春小説の醍醐味ですよね。
と、理屈っぽいことは抜きにして。
イラスト見ました????
赤い目! 黒髪! 神デザインキタコレ!!
かっこいいオブかっこいいがきてますよマジで! そうそう、こういう男の子が好きなんだ……顔がいい男の子の青春がいいんだ……。
むっちゃ好きです。
4.まとめ~青春を描いて~
さて、かなりの分量にいったのでそろそろまとめに入りましょう。
作者の丸深まろやか先生と言えば、『美少女と距離を置く方法』で知られるラノベ作家様です。私はその作品も読んでいますし、もう一作、WEB小説の方で読んだ作品があります。それが『心配性で一途な彼女が僕をぜんぜん諦めない』です。
いずれの作品も青春を描き、そして恋愛について描いた名作だと思っています。
どちらも恋に終始せず、生き方や考え方に寄り添う作品です。
恋にも、痛み止めがあればいいのに。
『天使は炭酸しか飲まない』P10
この一文からこの物語は始まりますが、私は見事に心を掴まれました。
青春とは、恋だけではないですし、同時に恋抜きにも語れないでしょう。それは本人が恋するかどうかにかかわらず、周りには恋があり、そして恋をする要素があるからです。
子供のときはジュースを飲んで、大人になるとコーヒーを飲む。
甘さと苦さの中間点である青春にぴったりな飲み物こそ、炭酸なのではないでしょうか。ふとそんなことを思えた一作でもあります。
恋愛も、それ以外も、悩みや考え方は人それぞれ。
人によってはちっぽけなことが、誰かにとっては不思議で理解しがたい。これはヒロインや主人公だけではなく、他のキャラの行動にも見え隠れしている部分でしょう。
その青春の不思議さに、すこし不思議な『ちから』を持つだけの男の子が、ちょっとだけ触れてみる。そうすることでシュワっと炭酸が弾ける物語。
ぜひとも最後まで見届けたい作品です。
というわけで!!!
推しはマジで推せるときに推しましょうね?????
以上で今回は終わりです。
読んでくださってありがとこーございました!
『心配性で一途な彼女が僕をぜんぜん諦めない』もぜひ。
https://ncode.syosetu.com/n1137fz/
P.S.
これは読んだ方だけに分かっていただきたいんですが、柚月湊の惚れ症云々の認識を知った後で主人公に好きになるかも発言をしてるの、深みにはまる萌えポイントだと思いません?
薄らそういうことだと気付いたうえで言うってことは、自分がそう思われるかもってどこかで思っていたわけで。自意識過剰さというより、むしろ……というか。
人間的造形が最高に可愛いと思います。