こんにちは、とこーです。
今回は今話題の二番目彼女をようやく読めたので、感想を書いていきたいと思います。ネタバレは極力避けていきますが、完全になくすのは難しいのでご注意を。
それではいきます。
1.とにかく“巧い”作品
この作品は、あらすじやタイトルからも分かるように、ちょっと普通の恋愛とは違う恋愛を抱いた作品になっています。
その背徳感とか不純性とかキャラとかそういうところももちろん触れるのですが……
まず第一にこの作品を読んで思ったのは、『巧い』ということでした。
まず前提として、この作品では主人公と早坂さんが互いに『二番目に好きな相手』として付き合っています。
そもそもとして、この関係性がなかなかに複雑ですよね。
主人公は誰が好きで、早坂さんは誰が好き。
けど色々と事情があって叶わないかもしれないから、二番目同士で付き合おう。
その展開は分かりますが、これを書こうとするとそれだけでかなりの文量が必要となってくるはずです。
そこを、この作品では既に『二番目に好きな相手』同士で付き合っているところから始まります。
むしろ二人が付き合っているところを描写し、その甘さやドキドキ感を読者に与えた上で『二番目である』ということを提示しています。タイトルが直球だからこそ、読者は『この二人が二番目ってことなのかな』と自然に理解するようになりますし、読書意欲をものすごく駆り立ててくる構成であるように思います。
前提となるタイトルが示す展開へと至るまでに時間を費やす、という作品も多々ある現在。カットするべきところをカットし、描写すべきところを選び、その上で説明をきちんと入れる。
この選球眼のような編集力と全体の構成を考えて話の順番を決めていく力がとんでもないな、と思うわけです。
それは序盤だけではありません。
この作品は、とにかく構成が抜群に巧いのです。
登場する二人のヒロインとのエピソード自体も、非常に面白いでしょう。でもそのエピソードを選び、並び替え、速度感を調整する技術が凄いと思うんです。
無駄なところを省き、逆に必要なところをきちんと書くことで読者を置き去りにせずサクサクと進んでいけている作品だと思います。
これって、少しでも自分で書いたことがある人なら分かると思うんですけど、めちゃくちゃ難しいんですよね。
説明をつい書きすぎたり、展開と物語の速度感がアンマッチしていたり。
そういうことがないので非常に読み易いですし、どんどん次を読みたくなります。
正直なところ、この作品がここまで話題になっているのってそういうところが大きいのかも、と思ったりしています
2.叙述トリック?感のある話の連鎖
叙述トリック、というものを私はあまり理解できていません。
ミステリー作品に触れてこなかったので、そこは口惜しいのですが……たぶん、この作品には叙述トリック感のある描写がそこそこ見られます。
かの米澤穂信先生の古典部シリーズ『愚者のエンドロール』にて、奉太郎が考えた結末っぽさ、と表現するのが私的にはしっくりきます。ああいうのが叙述トリックなんですかね?
事実を淡々と描きつつ、後で綺麗に回収することでハッとさせられる。
そんな展開が結構ありました。そういう構成になっている、という部分もあるのでしょう。
これは1で挙げた構成の巧さにもかかわってくることだと思います。
勢いで話を進めたい際には、それを邪魔するような余計な説明は書かない。
逆に説明が一番効果的になるタイミングで挿入することで、説明自体に面白さを付与する。
そのことで『ああ、そういうことなのか……』となります。
もちろん、意図的に隠されているわけではないので読んでいくと自然に『もしかしてそういうことなのでは?』となります。考察や伏線と呼ぶほどのものではないですが、そこに近い『ひっかかり』がありました。
伏線回収ってみんな大好きですよね。
この作品でも『ひっかかり』を適度な頻度でドンドン回収しては更に展開しています。この繰り返しが、読書欲を駆り立ててきました。
一度するっと読んだ文章の意味が違うように思えたり、抱いていた感想に少量の毒が入ったりするような感覚はこの作品ならではかもしれません。
3.主人公の魅力
主人公至上主義を掲げる私とこー、やはりこういう作品でも主人公に対しては思うところがあります。
特にラノベや漫画だと、不純愛系の作品って主人公はかなりの正義漢だったり、初心なところが合ったりすると思うんですよ、私。
一人称描写だと、背徳なシーンはドキドキ感ばかりが出て、若干読者を置いてけぼりにしたり……。
もちろん、そういう作品もありですし、リアルだと思います。けど生々しさを出すうえでは、やはり主人公には理知的で理性的な面が必要ではないでしょうか。
そしてこの作品の主人公にはそういう面がありました。
何ならプロローグからして理屈っぽさがありますからね。
そういう理屈っぽさがあるからこそ、そこから溶けていくような背徳なシーンへの移り変わりが生々しく、引き込まれてしまうのです。
他の面で言っても、主人公はとても魅力的な人物でした。
というか、ちょっとびっくりです。
イラストとか見てる感じ、二人の女の子に振り回されて流されるだけの初心陰キャ男子かな、とか思っていたんですが(失礼)全然違いましたね。
周囲をよく見て、困っている人にすぐ手を差し伸べられる人です。
ぶっちゃけ、不純な要素とか入れなくともこの作品はめちゃくちゃ面白くなると思うんですよ。
それは1や2で挙げたような巧さもあるんですが、一番は主人公がそれだけ魅力的なことが理由です。
ちゃんとした哲学を持ち、きっちり行動できる人はかっこいいですよね……。
4.二人の魅力的なヒロイン
さて、ようやくヒロイン二人に触れられます。
早坂さんと橘さん。
主人公にとって『二番目』であり、彼女でもある早坂さんは周囲から清楚だと思われ、でも主人公の前では悪い子になるという絶対可愛いキャラです。
こんな子、惚れない人います????
適度でエッチで、どんどん主人公に甘えてくるところとかもうちょう可愛いでしょ。こんな彼女が欲しくない人がいるなら、ぜひ名乗り出てほしい。
皆との内緒の関係、というのもまた超いいです。
ものすごくドキドキします。
凄いのは、早坂さんも主人公をちゃんと好きなところなんですよね。
互いの恋を応援して……という男女ものがたいていの場合応援しあっていた二人で付き合うというラノベあるあるはよく聞きますが、この二人が既に付き合っているというのがこの作品のイレギュラーなところですね。
別に他の人と付き合っているわけではないので、何一つ悪いことをしているわけじゃない。
ただ秘密の恋を、『二番目』の恋をしているだけにすぎない。
なのに不思議と感じる背徳感。それは、早坂さんのいう『悪い子』という言葉に凝縮されているように思います。
どうして!!!
『悪い子』って言葉はこんなにも甘美なんでしょうねっ????
悪いことじゃなくとも、『悪い子』って言われると超ドキドキしません⁉
清楚だと思われてる子にそれを言われると、死ぬほどドキドキするんですけど。
しかも、そんな早坂さんが途中からだんだんおかしな様子になってくるのも超好き。
ぐだぐだと依存していく感じでしょうか……もう超好き。
……ここまで語れば分かるかもしれませんが、早坂さん派です。
でも、橘さんも好きなんですよね~。
どこかミステリアスな印象がある橘さんは、主人公の『一番目』に好きな相手です。
でも彼氏がいる、という噂が……
そして恋をあまり理解してなそうな様子もあって……
と、魅力的ですよね。
恋が分からないからと積極的になってくるこの感じ、たまらなくいいです。
この依存感よ。
主人公にぐだぐだと溶けていくところとか、死ぬほどいいんですけど……。
そんなわけで、見事に二人のヒロインの魅力を描いた第一巻でした。
5.ほかのキャラクターも。
主人公とヒロインに触れましたが、他のキャラクターもかなり魅力的でした。
いや、魅力的とは少し違うかもしれません。
ここでもやはり、『巧い』という言葉を用いたくなります。
登場人物一人一人に哲学と信念と物語上の役割を与えるのが、ドン引きしちゃうほどに巧いんですよ、この作品。
主人公たちの恋に対し、そして読者に示唆を与える。
その役割を、それぞれの立場のキャラクターがあまりに巧みにこなしすぎているのです。
それでいて、舞台装置のようには決してなっていません。
が、一冊の中ではあくまで主人公とヒロイン二人に徹底的にクローズアップしていると感じます。
この『感じる』ということが結構ポイントだと思うんです。
何しろ、他のキャラの出番もそれなりに多かったですからね。
そこにも読ませるシーンはありましたし、面白かった。
なのに読んだうえで、あくまで三人にクローズアップしていると感じるだけ、存在の主張が激しくなかったんですよ。
物語に溶け込む巧さが、もうとんでもないと思います。
6.背徳?不純愛?不健全?
この作品は、Twitterでも背徳だとか不純愛だとか不健全だとか色々と言われていますね。
あとはエロい、とかもでしょうか。
私はその全てに賛同し、同時にそうかな、と疑問を呈したいと考える派です。
というのも、すごくよく考えると言うほど背徳ではないんですよね。
だって『二番目に好きな子と付き合う』という妥協は別にありがちでしょ?
お互いに好きな子を応援しあう、というのもまぁよくあります。
応援していた相手が好きな相手に見せる笑顔にもやっとする主人公……とか、なんならぶっちゃけちょっと懐かしいですよ。
橘さんも……詳しい事情は避けますが、一部を除けば、言うほど倫理に反している存在でもありません。
エロさも、どうなんでしょうね。もちろんそういうシーンはたくさんあるんですけど、行為の進み方で言えばもっと進んだことをしてる作品も多いですよね。
それなのに、背徳で不純愛で不健全でエロく感じる。
その絶妙な巧さの正体は、『適度なストレス』とその『発散』にあると思います。
顕著なのは早坂さん。
『二番目』としてすっごく甘くてエロい展開が続くのに、唐突に現れる『一番目』の気配。
この瞬間のストレス(悪い意味ではないですよ)は、ヤバくないですか?
恋を応援系の作品は多々ありますが、その比じゃない。
甘々なだけじゃなくて、マジでエロめの展開に突入してるんですよ?
その寸止めだけでもモヤるのに、さらに別の男の陰でモヤらせてくるというこの感じ!
でも、そこで終わらないんですよ。
見事にかけたストレスを、きっちり過度に間を開けずに発散させてくれるんです。
しかもストレスの何倍にもなる快感で。
中毒症状になるでしょ、こんなの。もうヤバいです。
橘さんは……言うとネタバレになるので、おすすめ記事でもある今回は言及を避けます。
少なくとも橘さんは、早坂さんのようなストレスの方向性ではありませんでした。
どちらかというと純愛に近いのはこちらかも?
橘さんと主人公の純愛小説でも余裕で面白そうですし、多分どこかに類似作がありますね。
このストレス&発散のやり口が、私にはNTRものの作品に思えて仕方がない。
しかもすっごいゆっくりと堕としていくタイプのNTR。
主人公が橘さんのSNSを見ているところとか、物語終盤のところとか、マジでそう思います。
寝取り側のNTRと寝取られ側のNTRの両方の印象を兼ね備えつつ、そこがグダグダと崩壊していく感じ……。
それでいて青春感もあり、甘いし、それ以外の読み応えもあるという。
私は読んでいてつくづく思ったんですが、どうしてここまで好評な人がいるのか分からないんです。
このジャンルってクリティカルだけどニッチなあれじゃないです?
NTRものって地雷な人にはトコトン地雷な作品だと思うんですよ。
それなのにここまで人気が出てるのは、やっぱり巧さがあるからだと思います。
本来ならばそれなりに狭いターゲット層(と言ってもこういうジャンルが好きな人は多いですが)を、作品としての巧さでぐぐっと広げる。
そのおかげで、本来よりも更に堕ちる読者を増やせているのかな、と。
なのでぜひそういうジャンルが好きな方は読んでほしいですし、好きではない方も巧い作品なのでエンタメとして読んでみるといいかもしれないな、と思います。
今回はここまで。
到達文字数5000字。
文字を削れない悪い物書きがここにいますよ……。
この作品はきちんと省くところを省いているので、凝縮感がすごいのに。見習いたいものです。
あと、やっぱり早坂さんが好き。
二巻も出るっぽいですし、楽しみにしてます。早く読みたい……
でも性癖が歪む!
それでは、終わります。
読んでくださってありがとこーございました!