こんにちは、とこーです。
連れカノのときに雑記を書いた以来、久々のブログ更新になっております。今回はメンタルが割と回復してきたこと、時間ができたこと、そして何より今回読んだ新作がよかったことなどから、ちょっと丁寧に書きたいと思います。
今回読んだ作品は『運命の人は、嫁の妹でした。』
電撃文庫さんから7月に発売したばかりの新刊です。タイトルからして結構きになっていたのですが、実際読んでみるとタイトル以上のよさがありました。
そんなわけで、あらすじ以上のネタバレはないように紹介していきます。
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1.想像を超えるストーリー
タイトルを見る限りだと、最近流行りの背徳系だ、と思う方もいると思います。私も実際そう思いました。そのうえで、運命の人っていうワードの使い方に惹かれた部分があります。
が、今作は第一印象を超えていきます。
この作品は現代ファンタジーチックな世界観の「前世」と、少しおかしな人が集まる「今世」の二つの軸が交わる、濃密なラブコメディだったのです!
主人公の大吾は、前世で獅子乃という女性と恋をしていました。
終わりゆく世界。退廃的な環境の中で、次はお嫁さんに、と誓いながら「前世」は終わりを迎えます。
そんなバックボーンを忘れていた「今世」の大吾はとある事情から婚活を始め、ネットで知り合った女性・トワとブラインド婚活――すなわち、実際に会う前に結婚――をすることに。
そんなトワの妹が獅子乃であり、大吾は彼女と関わる中で「前世」の記憶を少しずつ思い出していきます。獅子乃もまた「前世」のことを思い出して……。
とね?
まずこの、終わりゆく世界っていう「前世」の設定がよくないです!?
なんかこう、ノベルゲームっぽいというか、ラノベっぽいというか。特にバトル要素がないラブコメにめちゃくちゃファンタジーな設定を付加してくるのが、たまらないです。
そして「前世」の記憶が結構濃い。
描写としてはそこそこ取りつつも、それが作品の大部分を占めるわけではないんです。なのに惹き込まれます。これが何故かと言えば、必要な部分と必要じゃない部分の区切りが上手いんですよね。
「前世」において重要なのはなにか。それは「前世」でのキャラクターたちの想いなわけです。史実ははっきり言ってそこまで重要じゃない。ディープに読み解く人だけが分かっていればいいんです。今作は感情の部分を見事に切り取り、そのうえで史実はあくまで必要な範囲だけをぎゅっと押し込めていた……と思います。
で、「前世」をふまえた「今世」ですよ。
こちらもすごく上手い。後述しますが、「前世」という設定が付与された時点で、表紙のヒロイン・獅子乃にフォーカスがいってしまうのは必然なんです。でも、それではヒロインレースにはならない。
今作では「今世」にもきちんと練られた設定があり、「今世」の獅子乃もちゃんと可愛いですし、タイトルにいる「嫁」にも魅力があります。
何より、大吾の周囲の環境や設定を練りになっている感があって凄いです。
何人か登場するサブキャラクターは魅力的ですし、そのうえで物語を進めるうえで存在感と必然性がありますし、読んでいく中で一切ノイズになっていないんです。
だからこそ、没入感が凄い。するする目が進みましたし、頭に入ってきました。
2.キャラクターが魅力的
今作にはヒロインが二人登場します。
タイトルの「嫁」であるトワこと兎羽と、「嫁の妹」である獅子乃です。
獅子乃は「前世」で大吾と繋がりがありましたが、そのことを憶えてはいません。しかし大吾と関わる中で彼に少し好意的な感情を抱き、やがて前世を思い出して……となっていきます。
まぁ、そのあたりはネタバレなのでいいとして。
本章では二人のヒロインの魅力を語っていきます。
まずは表紙を飾っている獅子乃。
敬語ヒロイン・オブ・ジ・イヤーって感じの女の子です。中学三年生で真面目。家庭環境のせいでやや世間知らずではありますが、義理堅い部分もある女の子です。
ツンケンしている部分があり、そこも可愛いのですが……彼女の場合は、大吾にアプローチすると決めてからのちょい腹黒な感じも最高です。
一方でポンコツというか、抜けている面もあり、そこも魅力的なキャラとなっております。
続いて、「嫁」である兎羽。
彼女は序盤に自由人として描かれ、大吾を騙したとしてちょっと問題児っぽく扱われるのですが……その実情は、かなりポンコツな女の子、という感じ。
男友達っぽい気安さがあったくせに、付き合っていくとどんどん乙女っぽい部分が垣間見えてきてめちゃくちゃ可愛いぞ?みたいなキャラです(伝われ)。
実は彼女にもとある過去があるのですが、まぁそれは読んでみてください。
決して彼女が当て馬ヒロインじゃないことが分かると思います。
さて、ヒロインの次は主人公の話もしておきましょう。
御堂大吾。
今作の主人公となる彼は最初「あれ、ダメな奴じゃね?」「しょうもないな……」というところから始まり、若干「バカなのでは?」って面は終始続いていきます。
ですが、その要素がものすごく魅力になってるんですよね。
人を信じられる強さ、迷っている人に手を差し伸べられる優しさ、みたいな。
魅力がないように見える主人公に魅力を付加するために使われるありがちな文句ではなく、人物造形として上手く「いいところ」と「そのいいところが裏目に出てしまう悪いところ」を練り込んでいると言えるでしょう。
これも後述しますが、大吾のいいところを必ず大吾以外の視点で描く、というのがよかったです。これは文章だからできる表現だと思いましたね。
大人なんですが会社勤めとかではなく、アパート経営をしながらたまに探偵業を、みたいな感じらしく。なんかその設定が妙にフィクション感があってよかったです。物語を読んでる、って感じでした。
こんな感じで魅力的なキャラクターがいる今作。
サブキャラも実に濃いので、飽きることなく一冊を読みきれます。
3.視点移動
何度も言ってしまう形になって申し訳ないんですが、この作品は「上手い」です。
もちろん面白かったですし心も動いたんですが、何よりも「上手いなぁ……」と思わされました。
その要素は大きく分けると三つです。
一つは設定の上手さ。もう一つはキャラクター造形の緻密さ。
ここはこれまで触れてきましたね。
残りが視点移動の話です。
今作では大吾・獅子乃・兎羽の視点が入れ替わりながら進みます。
個人的にキャラクターの外面(骨格的な意味)がまだ定着していない一環で視点移動を多用すると混乱を産むだけだと思うのですが、今作ではそういったことがありませんでした。
視点移動がスムーズかつ、そのタイミングが適切です。「ここでこのキャラの視点にうつってほしいな」と思うような場所で、ちょうど移動してくれます。おかげでほとんどラグなしで読み進められるんですよ。
そのうえで、この視点移動がやや処理しにくい設定をラブコメに昇華していると感じました。
「前世」の設定はそれ自体がウェイトとして重くなりすぎてしまい、いつヒロインがその記憶を思い出しているのか、その記憶に対してどう思っているのか、といったことがぐちぁぐちゃしてしまいかねません。そのうえ離れた要素のことが描かれるので、読みながら「この物語はどこに向かってるんだ?」状態になるおそれもあります。
今作では「前世」のヒロイン、「今世」のヒロイン、「前世」の主人公、「今世」の主人公といった感じで「前世」と「今世」を個人の内面の物語のように描くことで、最終的な焦点が“今の恋心”に当たっているように思います。
これは前述した「前世」を史実ではなく感情として描くというのと似ている話です。これが主人公視点のみの話ではどんなに感情を描いても史実的な要素が強まってしまいますが(もしくは逆に過度なポエムチックになり、物語としての位置づけが弱くなるか)、ヒロイン視点での「前世」が語られることで、見事に物語に詰め込めています。
一方で「前世」がクローズアップされるあまりに「今世」が弱くなる、という問題もあります。もっと分かりやすく言えば、「前世のことは分かったけど、今世のヒロインって別に可愛くなくね?」みたいな。主人公にとって特別な存在でも、それが読者に伝わらない、ということはしばしばあるでしょう。
視点移動はそれを解消する役割も果たしています。
どうしても主人公視点のみでは、ヒロインの魅力を描写しきれない部分があります。
照れかデレでしか表せない、と言ってしまうと極論かもしれませんが。
ヒロインの一人称により、主人公が知らない事実を描写できますし、ヒロインが心の中でしている可愛らしい葛藤を覗くこともできます。これが絶対に大きい。さらに、ヒロイン視点から主人公を描くことで、主人公視点で良さを描くよりも効果的に伝わってる部分もあるでしょう。恋する女の子の眼鏡を読者につけさせてるわけです。
こういう意味で、今作において視点移動はものすっごく活用されていると感じました。ほんと、上手い……。
4.まとめ
今回は久々に少し書きました。
びっくりするほど巧かったんですが、そもそも作者様がシナリオライタをやっているとのことで。そりゃそうだな、と思いました。あらすじを読んでいたら冴えカノのタイトルが出て思い出したんですが、読んだ後の感覚はなんとなく冴えカノのblessing software の一作目のゲームっぽいのかもしれないです。現代ではファンタジー要素がないので、やや違いますけど。
いずれにせよ、今後の展開が気になりますね。
9月には早くも二巻が発売とのことです。電撃さんは最近、一巻だした翌月とか翌々月に次を出して畳みかける、みたいな手法をとることがありますね。楽しみです。
そして、ここからはちょっとだけネタバレ。
その後は挨拶をしてるだけなので、未読の方はここでブラウザバックすること推奨です。
個人的にはP286~287の部分が最高でした。
全部文字を揃えてずらーって並べるあの口説きのシーン。
空いたスペースに、絵が浮かび上がってくるような錯覚をうけました。あそこから、物語が一気に進んでいくのが最高です。
明かされる「前世」の事実。
そこからの――。
ここからどうなるのか、楽しみでしょうがないです。
名作に出会えました。
それでは、今回はここまで。
読んでくださってありがとこーございました!