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【ぶち壊せ、そのラムネ瓶を】千歳くんはラムネ瓶のなか7【感想】

こんにちは、とこーです。

前回はだらだらとエッセイ仕立てでチラムネ7巻について語ったのですが、今回は趣向を変えて(というか戻して)、きちんと感想を書いていきたいと思います。

当然ですがネタバレ多数ですので、未読の方はご注意を。

一応、リンクを貼っておきますね。きっとブログを見ている方は既読だと思いますが。

bookwalker.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.戻ってきたような春、帰ってきたような秋

まずは一章『私たちの九月』。

チラムネ!!!って感じの一章でした。いつものことながら一文目から凄いんですよ、ほんっとに……これを見てどれだけの時間フリーズしたことか。

そこから始まるのは、どこか懐かしいやり取り。

特に一章は、1巻や2巻をすごく意識したお話だったな、と感じます。P12~の文章ややり取りは、もろ1巻と重ねてきてますしね。

しかしそれでも、色んなものが違う。優空とのやり取りに始まり、男子陣には健太が混ざってて、陽や悠月との関係もちょっと変わってて、不快ビームを出してた亜十夢くんやなずなたちとも、今では仲間みたいに過ごしてて。

遠回りをして、時に間違えて、だからこそ辿り着いた世界って感じがありました。これまでチラムネを読んできた人間は、ここで泣けるんすよ。

っていうか、健太が今まで以上に打ち解けてるなぁ、と感じました。今までも健太はお客様ポジションには程遠いくらいチーム千歳に馴染んでましたけど、6巻があって、真の意味で対等で心を分け合った友達になったんじゃないかな、と思ったり。

あと、嬉しかったのは夕湖の6.5巻の言葉が、やっぱり朔にとっての救いになっていたこと。私、チラムネの中でも一番といっていいくらい、あの夕湖の台詞が好きなんです。優しい上書きが、本当に尊くて綺麗だったから。なので、彼の中でその言葉が救いになってくれていてよかった。そういう彼と彼女でいてくれて、よかった。

 

夕湖絡みで追加して言うと、7巻全体を通して、彼女が柊夕湖になっていくな、と感じました。それと同時に、他の子の中でどんどん神聖視されていくな、とも。

6.5巻を読むと分かると思うのですが、この作品って自己評価と他者評価の食い違いが大きいんですよね。特に夕湖は顕著だなぁと感じています。彼女は彼女であり続けていて、彼女が以前朔に言ったように彼女の精一杯で朔と向き合ってるんですよ。時に反省して、時に変わって……って。

けれど、他の女の子の間では一歩前に進んだ夕湖の姿が尊いし、遠くにあるように見えてるわけです。

個人的には6巻を経て「夕湖と優空が一歩前に進んだ」と思っていたのですが、7巻を読んで「夕湖は前に進み、優空はスタートラインに立ったのか」と気づかされました。きっとまだ、他の彼女たちは一歩が踏み出せていないんですね。

夕湖がそうであったように、きっと一歩を踏み出すためには傷つかなくてはならない。傷つけなくてはならない。その果てに、何かを失くすかもしれない。それなら……と停滞に身を委ねそうになっていく。そんな一章でした。

 

 

2.交わるみんな、色づく青

そんなこんなで、二章『私たちの青色』。

これはものすっごく青春なお話でしたね。藤志高祭、青組の応援団の準備。みんなで一緒にワイワイやって、合宿して……って。

5巻も青春してましたけど、それぞれが弱さと向き合った6巻の後だからこそ、あのときよりもずっと愛おしい時間が流れてるんだなぁと感じました。

そんな中でも、それぞれのヒロインとの関係の描き方ですよ。特に悠月とか、朔の家でのやり取りがゾワゾワして最高でした。

更に、合宿回。

私はチラムネで一番ラブコメを感じましたね。わいわいがやがやしてるのは青春っぽくもありながら、朔とヒロイン5人とのやり取りはラブコメっぽくて、笑える部分もあって。3巻で明日姉が朔を攫ってデートに行くシーンみたいな勢いを感じたのは私だけかな’(多分そう)。

また、ヒロイン同士の一対一の語り合いを描いてたのが憎かったですね。Wヒロインものですらヒロイン同士のやり取りって熱いしグッとくるのに、5人全員が魅力的なチラムネでリレーみたいにこれをやるのは強すぎません?

ここに関しては、もうちょいじっくり読んで、落とし込んでから消化したい部分です。

え、あの子についての話?

それは後でまとめてするに決まってるじゃないですか……ここで語ったら止まらないので。

 

二章を締めくくる文章は、本当に千歳朔だな、と思いました。

6巻の夏祭りでの「みんな」の集合がグッとこなかったファン、いないと思うんですよ。朔自身もラムネ瓶から取り出して、ヒーローではなく千歳朔になって、みんなと一緒の日々を過ごして。

その青い春をあの文章でまとめるのは、朔の気持ちがぐぅぅぅぅっって伝わってきました。

 

 

3.誰の居場所で、どんな居場所で。

三章『私たちの居場所』。

夏の残り火みたいにゆらゆら揺れていた不確かな違和感が、ぼぅ、と燃え上がる三章でした。っていうか、タイトルがずるくない? 目次公開されたときに「あー、そっか。居場所ができたんだな……みんなでいる場所を居場所って思いあえるようになったんだな」と明日姉がみんなの中に入ることを嬉しく思いながら感動してたのに、全然意味合いが違うじゃん!

個人的にここを読みながらよぎったのは、二章の終盤でのやり取りでした。紅葉と公園に行き、夕湖といつも話していた場所で話すところ。あそこは、もろに三章と繋がってますよね。

それぞれの女の子が朔と絆を持ち、居場所を得て、関わってきた。

それは紛れもなく特別で、夕湖だって、海人に朔の場所を上書きされたくないと思っていて。

それでも夕湖はたぶん、他の三人のように居場所を上書きされていないし、されていても彼女たちのように傷つかないんですよね。

ここで、彼女の言葉が生きてくるのでしょう。

「だけどね、自分の態度も決めないままに捕まえられる相手じゃないよ、隣にいるあんぽんたんは。いまの悠月も、私も、朔のトクベツじゃない。だけど私は自分がトクベツじゃないことをちゃんと知ってるから、一歩リード!」

(『千歳くんはラムネ瓶のなか2』より)

夕湖は嫉妬しないわけではないと思います。でもそれは、きっと羨ましいとかじゃなくて、自分もしたい、っていう思いなんじゃないかと。

ここでも夕湖の言葉が生きてくるわけです。

「そうだよ、私は私の精一杯で朔と向き合えばいいの。他の子は関係ない」

(『千歳くんはラムネ瓶のなか3』より

5巻や6巻を読んで、私は夕湖の言葉がどこか強がりだったのかな、と感じていました。嫉妬しているし、他の子のことをとても意識していましたから。でも違ったんだな、と今回思わされました。というか、7巻を読んで一貫して思ったのは「あー、自分は柊夕湖って女の子のことを何にも知らなかったんだな」ってことでしたね。

 

と、そんな風に夕湖のことを受けて、他の3人です。

明日姉、陽、優空。

二人はそれぞれ、紅葉に居場所を上書きされるような形で7巻を終えました。これは決して三章だけの話ではなく、二章でもちょこちょこ描かれていたことです。

朔兄、と呼んでみたり。

8番についていったり。

衣装を作ると名乗り出たり。

ん……?と思う描写はいたるところにあったんですよね。紅葉、押し強くない?と。若干空気読めないレベルでグイグイ来てるし、ものすごくかき乱すし。

でも、悪戯心で彼らの関係をぐちゃぐちゃにするような敵役がチラムネに登場するわけないじゃないですか。

だから三章を読んで、うっわぁ……って言葉を失いましたし、心臓が凄く痛かったですね。痛くて、辛くて、ぐちゃぐちゃになりました。

あとがきとか、色んなところで裕夢先生は書いているときのキャラの心境に影響されるっておっしゃってましたけど、その流れで言うと、私はチラムネを読んでいるときにチラムネのキャラの心にとても影響されているように思います。

親のような心境でありながら、まるで当事者のようにも感じていて。

だから三章は痛かった。大切な居場所が奪われていく。するすると手のひらから零れていく。呼吸を忘れたかもしれないですし、逆に呼吸ばかりをしていたような気もする。そんな展開でした。

 

で、回ってきた悠月のターン。

特に7巻では割と朔の隣にいることが多く、チームの中でも朔の写し鏡のような存在である彼女は、紅葉の言動に気付きました。

そうして問い詰めるわけですが――返り討ちに。

ずしゃずしゃに雨に打たれている気分だった、というのが正直なところです。紅葉という少女はあまりにも強すぎました。

なんか、このやり取りを見ていると、どこかで鏡写しみたいだな、と思ったりもしましたね。紅葉って実はスペック的にとても朔に通じている部分があり、容姿の面でも夕湖より悠月が引き合いに出されている時点で、どこか並立的な描写をされている感じがあったので。

だからこそ、悠月の敗北は七瀬悠月その人への敗北だったのかなぁ……とか。

 

 

4.本気

本気の話は……これもう、語る必要あるかな、という感じ。

6.5巻を読んでいたら、もう絶対に悠月がくるよな、とは分かっていましたし、色んな人が予想していましたもんね。

本気の本気でタガが外れた七瀬悠月の強さがヤバいです。

でもまさか4巻の話を引っ張ってくるとは思わなかったなぁ……そうか、「本気」って話だと、そう繋がるんですよね。盲点でした。

何より好きだったのは、最後でしたね。

主眼が朔ではなく、自分なんですよ。朔をどうこうするんじゃなくて、狂おしいほど愛してやまない自分を魅せる。これ、悠月だなぁ……と。

まぁ後は、イラストがえっぐいな、ってことですかね。それ以外は言葉が要らないと思います。七瀬悠月の本気。くそかっけぇな、って感じです。

 

 

5.On your marks.

さて、ここからは紅葉のことを語ります。これは前回書いたエッセイでもこれでもかって書いたんですが、今回はよりストーリーに沿った話をします。

紅葉の言動を、皆さんはどう感じ取ったでしょうか?

確かに理屈の上では彼女は何も悪いことをしていないし、卑怯なことをしていない。それでもやっぱり彼女たちの居場所を意図的に踏み荒らして傷つけたのは「悪女だな」、と私は感じていました。

初読だから細かい部分を拾えていなかった、っていうのあるんですけどね。

朔が大事にしている今が彼にとって、そして彼らにとってどれほど大切なのかもわかっていたし、「みんなの物語」としてのチラムネが大好きだからこそ、好き嫌いではなく「悪女だな」と感じたわけです。ある意味では、場をかき乱すトリックスターのような感覚を受けながら。

それが変わったのが、プロローグ『ヒーロー見参』でした。

もしかしたら私はここを読んで初めて、力強く抗う望紅葉という少女を理解できたのかもしれません。

この子は悪女なんかじゃない。きっとこの子なりに悩んで、苦しんで、きらきらした朔たちの日々に焦がれて、それでも本当の望みを選んだんですよね。

しかもその望みに手を伸ばそうとしたとき、既に割り込めないくらいに関係が築かれてるんですよ。

三章を読んでたくさん痛くて辛くて苦しかったのに、プロローグを読んだら「いっちゃん辛いのはこの子じゃんか……!」って思えちゃいました。

十五歳(もしかしたら十六歳)の少女が、一途な恋のために本心から憧れている先輩たちの中に割り込み、抗おうとしてる。あまりにも気高くて、月そのものみたいじゃないですか。

不安もあるし、迷いもあるし、後悔もきっとあるのに、それでも駆け抜けて。

かっこいいなぁ……って。

でね、でね!

そんな風に思ってぱらぱら~とこのブログを書くためにページをめくっていたら、紅葉のこんなセリフが出てきました。

「先輩、重くないですか?」

(中略)

「あと五人ぐらい紅葉がいたって大丈夫だぞ」

(中略)

「ふふ、じゃあその五人分も私に注いでください」

(『千歳くんはラムネ瓶のなか7』より)

場面が分かりやすいように二つほど多めにセリフを引用しましたが、私は最後のセリフを見て息が止まりました。これ、単に重さだけの話じゃなくて、紅葉の想いが現れている部分なのかなぁ、と。

「満ち足りないから、望みます」

(『千歳くんはラムネ瓶のなか7』より)

月に手を伸ばす。

その意味を再確認させられる想いのように感じました。

 

 

6.まとめ

さて、長くなりましたが、全体的に「ラムネ瓶を壊す」という感覚がとてもしっくりくるお話だったな、と感じます。

悠月が自分の殻というラムネ瓶を壊し、紅葉が停滞というラムネ瓶を壊した。

ではここから先はどうなるのか。

別に私は、5人みんなが紅葉のようになる必要はないと思うんですよ。「満ち足りない」思いは、何も恋だけに限らないと思うんです。本当の望みと向き合うことが、きっと大切なんじゃないかなーと。

それに今回、否が応でも彼女たちは自分がトクベツじゃないことを自覚することになりました。そこからどう変わっていくのか。とても楽しみです……し、何より朔がどうなっていくのかにも注目したいです。

更に、紅葉にも期待したいです。個人的には今回の話で紅葉があまりにも気高くて、少女らしくて、大好きな推しになりました。

じゃあ彼女は、悠月を覚醒させ、他の子たちにトクベツじゃないことを知らしめるためのヒールやトリックスター的な存在だったのか。

そうじゃない、と私は思います。一人の少女の望みが、力強い反逆が、まるで停滞を切り裂くためだけのナイフのように扱われていいはずがない。

……とね、時間を追うごとに紅葉のことを考えるとぐぅぅぅって胸が締め付けられるんですよ。なんでしょうね。ここまで誰かに対して気高いという感情を抱いたのは初めてかもしれません。チラムネのヒロインはみんな好きだし、心が揺さぶられてきましたし熱くさせられてきたんですけど……物語に抗う姿勢、みたいなのが好きだったのかもしれないですね。

まっっっっっじで刺さりました。

ちなみに事前に情報を追っていた人は知ってると思うんですけど、紅葉のイラストって実は二度もフライングで公開されてるんですよ。

一度目はチラムネナイトと題して口絵を連夜で公開する際に。

二度目はraemz先生が描いて発売日に投稿しようとしていたイラストを、二日ほど前に。

この二度のフライングも、紅葉の意志を感じちゃうんですよね。そんなことないって分かってはいるんですけど。

紅葉は以前SSに出てきた彼女なのか……と思いつつも、場面的に違うような感じもしていて。その出来事を知りたいなぁと思うと同時に、その物語を紅葉と結びつけること自体が彼女への冒涜のようにも思えて……とかなーり複雑でめんどくさいオタクになっています。紅葉の存在が一気にチラムネを押し上げましたよ、マジで。

 

 

と、いうわけでここまで。

SSが届いたら追記するなりツイートするなりしたいなぁ、と思っています。

それでは今回はここまで。